学校だより 7月号

大人が協力して、子供の心を育てていきましょう。
校 長  松原 好広
 上野動物園に、かつて園長をされていた中川志郎先生という方がいらっしゃいました。この方は、大変すぐれた動物学者でした。
 中川先生は、若い頃、動物の餌の研究のためアメリカへ留学されました。動物園というのは、ご存じのように、野生の動物を檻の中で飼います。野生の動物を檻に入れて飼うということは、大変難しいことなのです。たとえば、野生の時に比べて、病気になりやすく、死亡率も高く、繁殖率も低下するなどの問題が発生します。そこで、中川先生は、アメリカに渡って餌の研究を進めたそうです。その結果、動物の好みの傾向、栄養の問題、噛む力、歯の形などのあらゆる条件を取り入れて、理想と思われる人工飼料(現在のキャットフードのようなもの)である「ペレット」を開発しました。中川先生は、その「ペレット」を日本に持ち帰って、動物園の動物たちに与えたそうです。すると、動物の病気は見る見る減りはじめ、繁殖力も高まったそうなのです。
 しかし、数年後、高等な動物である霊長類のゴリラやオラウータンなどに異変が現れました。突然暴れたり、常に動き回ったり、毛をむしり取ったりするなどの行動が現れたそうです。中川先生は、生理学・医学の観点から徹底的に調べました。すると、最も優れていると思われていた「ペレット」に、重大な問題があることがわかったそうです。
 動物というのは、それぞれに固有の摂食行動があるのだそうです。たとえば、餌を取るときには、折ってから食べる、ほじくりだしてから食べる、皮をむいてから食べる、割ってから食べるなど、その動物の生活にとって、「やらなければならないプロセス」があることがわかったというのです。
中川先生は、その「やらなければならないプロセス」を省いたことで、高等な動物である霊長類に異変が生じたことが分かったのでした。その反省を生かして、動物の摂食行動に合わせた餌の与え方を変更したり、バナナ、リンゴ、木の実などの果実をそのまま餌として与えたりしたそうです。
 この問題は、何も動物園の動物に限ったことではありません。同じ霊長類である人間にとっても当てはまるのではないでしょうか。大人が、良かれと思って子供の心を育てるプロセスを省略してしまうことはないでしょうか。
たとえば、「子供がやりたがらないので、挨拶することをしつけていません。」「子供が好きなので、いつもファーストフードを食べさせています。」「子供の意思を尊重して、朝起きて顔を洗うことは本人任せています。」ことはないでしょうか。このような大人の先回りが、子供の心を育てる機会を奪ってしまいます。中川先生の話から、大人が協力して、子供の心を育てていかなければならないと改めて思いました。

更新日:2018年07月13日 07:47:46