学校だより 6月

いじめを考える(中学校学級担任時代を振り返って)
校 長  松原 好広
それは、中学一年生を受けもった、いじめの道徳授業を行ったときのことでした。
「いじめは許しません。」「いじめをなくします。」「人間として、許されない行為です。」
 多くの子どもが、いじめについて、もっともらしい発言をしていました。そのときAくんの発言が、状況を一変させました。
 「みんなは、いじめはよくないと言うけど、どこの世界だって、いじめはあるんだ。そして、だれもそれを止められないんだ。」
 Aくんの発言を聞いて、それまで積極的に発言をしていた他の子どもは戸惑いました。
「でも…」「やっぱり…。」「そう言っても…。」
 先ほどまでの勢いは、影をひそめました。すると、Aくんがさらに言いました。
 「みんなは、いじめを許さない、いじめをクラスからなくすと言っているけど、小学校のとき、いじめをなくすことができなかったじゃないか。いじめは人間として許されない行為だと言っているけど、大人の世界にだって、いじめはあるじゃないか。」
 他の子どもは、何も答えられなくなりました。Aくんは、さらに続けて言いました。
「人と人とが集まれば、必ずいじめは起こるんだ。いじめというのは、人間が生まれもった性分なんだ。だから仕方のないことなんだ。それなのに、いじめをなくすことなんて、できるわけがないんだ。」
 Aくんに、そこまで言われると、他の子どもは、何も言い返すことができませんでした。私は、そのとき、次のように切り返しました。
 「今、Aくんは、人と人とが集まれば、必ずいじめは起こると答えてくれました。いじめというのは、人間が生まれもった性分だし、大人の世界にもあるのだから、仕方のないことだとも話してくれました。」
Aくんは、「先生も、僕と同じ考えだ。」と言わんばかりに誇らしげでした。他の子どもは、不安な表情で私の顔を覗き込んでいました。私は、ひと呼吸おいて、Aくんに話をしました。
「でも、今日は、みんながいじめに立ち向かおうとしているのに、Aくんに水を差されてしまいました。先生は、正直言って、腹立たしかったです。だから、先生は、今日から、Aくんのことをいじめようと思います。だって、いじめは、Aくんの言うとおり、人間の性分のようなものだし、仕方のないことなのだろう。」
そう言われたAくんは、驚きを隠せませんでした。すぐに私に向かって、こう答えました。
 「教師がそんなことをしたら、教育委員会に訴えてやる。」
 そのひとことを聞いて、今まで、黙っていた他の子どもが一斉に声を上げました。
 「いじめは、仕方ないんだろう。」「もって生まれた性分なんだろう。」「言っていることが違うじゃないか。」
 Aくんは、他の子どもにそう言われて、何も答えられなくなりました。そんな光景を目にしたら、Aくんのことが少し気の毒になりました。すぐに、他の子どもに向かって話をしました。
「でも今日は、Aくんのお蔭で、いじめについて深く考えることができました。もし、今日の授業でAくんが発言してくれなかったら、表面的な話し合いで終わっていたと思います。だから、先生は、Aくんにとても感謝しています。」
ざわついていた教室が静かになりました。私は、さらに話を続けました。
「Aくんの言っていることも、確かにあるのかもしれません。でも、いじめは仕方のないことだと思ったら、それですべてが終わってしまいます。いじめをなくすことは難しいことかもしれませんが、自分のできる範囲で、いじめに立ち向かっていくことが大切だと思います。今、私たちは、そのことが問われているのではないでしょうか。」
 そう話し終えると、Aくんを非難する子どもはいなくなりました。ひとりひとりの子どもがいじめについて真剣に考えてくれるようになりました。

更新日:2018年06月07日 09:11:06